戸川利郎

  • 日本
  • 東京都
  • 2020/01/07 登録

戸川利郎

大学での仕事の傍ら、地元のアマチュアオーケストラに参加してビオラを弾いています。年に2回ある演奏会では、小さなお子さん連れの方も楽しめるように、アニメソングや誰もが知っている童謡の曲も演奏します。一生懸命練習した楽曲を家族や友人たちが楽しんで聴いてくれるのが何よりも嬉しいです。
オリジナル楽曲もあるので、ここでアップして多くの方に聴いていただきたいと思います。


<フランス西部の港町ナントの音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(LFJ)」の感想>

プログラムを見ながら、次の会場へと急ぐ。とはいっても、どのホールも同じナント市催事施設の内部にあって移動はすぐ。

会場には、アイゼナハ、ライプチヒ、ケーテン……それぞれバッハゆかりの土地名が付けられている。期待しながら扉の前に並ぶ。ふと、かたわらのイスに腰掛けて調弦しているのは、タチアナ・ヴァシリエヴァその人ではないか。今回、美形チェリストとして注目が集まる人気者のひとり。私たち観客が入り終わると、彼女も同じ扉からしずしずと登場し、舞台に上がった。そして華麗な演奏をする。万雷の拍手。またしずしずと退場。すると、ドアの外では彼女を囲んで談笑が始まるのだ。

奏者と観客の壁が溶かされていること。これが、今回、初めてこのラ・フォル・ジュルネに参加して、この音楽祭が実現している一番すばらしい成果だ、と思えた。溶かされた中で、聴くものも、演奏するものも、ただカフェテリアで談笑している人ですら、心からリラックスしている。そんな風に感じられた。

それは、アーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンの選曲や演奏家の配置にも現れる。私の限られたバッハの知識で、もっとも好きなのはゴルトベルク変奏曲。文化大革命期を経験したシャオ・メイ・シュの情念に満ちた演奏、軽やかでどこか揺らぎのあるアンヌ・ケフェレックの演奏、チャイコフスキーコンクール優勝のボリス・ベレゾフスキーの気負いのないタッチ。全く異なるものが全部、経験できる。それだけではない。アメリカから異能楽団を率いるユリ・ケーンのゴルトベルクは、変奏のあまり宇宙の彼方にまで達して、ついに終わったのは午前1時を回っていた。

ここには、こうあるべき、こう聴くべきという規範すらすっかり溶かされて、バッハの音楽本来の自由さと豊饒(ほうじょう)性が横溢(おういつ)していた。冴(さ)え冴えと冷えるナントの夜、私は心の底からハッピーな気分になった。

参考:http://www.christianmusicdaily.com/content/view/240/63/

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